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ボルバキアによる単為生殖に性転換が関与?

自分にとって重要な論文を見落としていた。

  • Tulgetske GM, Stouthamer R (2012) Characterization of intersex production in Trichogramma kaykai infected with parthenogenesis-inducing Wolbachia. Naturwissenschaften. 2012 Feb;99(2):143-52. doi: 10.1007/s00114-011-0880-2. Epub 2012 Jan 5.

寄生蜂で知られるボルバキアによる単為生殖の仕組みは、体細胞分裂の初期に起きるゲノムの倍加(細胞融合)により単数体(n)のオスが2倍体(2n)のメスになることだと考えられてきた。そのことから、高温処理をして出現する両性具有の個体は、「体の一部がn、他の部分が2nとなっておりそれぞれオスの形態とメスの形態として発現している」とみなされてきた。つまりオスゲノムの組織とメスゲノムの組織を併せ持つキメラであり、このような個体をジナンドロモルフ、あるいはギナンドロモルフという(gynandromorph)。

この仮説によると、たとえば2回目の体細胞分裂時に融合が起きると、体内のオス組織とメス組織の割合は2:1になるので、少なくとも体の3分の2以上はオス組織になるはず。実際にはほとんどがメスに近い形態をしていたという。

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また、前がメス、後ろがオスになるというこのハチでみられる一般的なジナンドロモルフの傾向にも合わなかったということなので、これはジナンドロモルフではなく、間性(intersex)であろうとしている。(もちろんこれだけのデータで結論を下すのは危険すぎるが)このことは、ボルバキアがメス化効果を持っているということを示唆しており、他の様々な例とも符合する。

近年カルディニウムが起こす単為生殖についてもメス化効果がはっきりと示されているし(Giorgini et al., 2009)、様々な現象の統合的な理解にゆっくりとではあるが近づいているような気がする。

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Wolbachia(wikipediaより)