鳥類の性染色体は2種類の進化をとげた
今日のゼミで紹介した論文
Vicoso B, Kaiser VB, Bachtrog D (2013) Sex-biased gene expression at homomorphic sex chromosomes in emus and its implication for sex chromosome evolution. PNAS 110: 6453-6458.
性染色体は元々普通の常染色体だったはずである。性的に拮抗した変異*1が常染色体上に蓄積することによって組換えが起きなくなり、徐々に異形の性染色体へと進化する。このように、組換えの抑制が性染色体進化の基本的な道筋であると従来考えられてきたため、平胸類(走鳥類)【ex. ダチョウ、エミュー、キーウィなど】でみられる、古いのに同形の性染色体は不可解な存在であった。
予備知識
- すべての鳥類は相同な*2性染色体を持っており、性染色体の起源は1億2千万年前(哺乳類の性染色体の起源は1億6千5百万年前なので近い)。
- すべての哺乳類とほとんどの鳥類は高度に分化した性染色体を持っているが、平胸類などの一部の鳥類は性染色体が同形である。
- 以前の研究により、エミューのZとWは概して相同**であり、分化した小さな領域を持っているだけであることがわかっている。
本研究でやったこと
- エミューの雌雄についてDNA-seqを実施
- エミューの雌雄についてRNA-seqを実施(15日齢と42日齢の胚)
本研究によりわかったこと
性染色体のほとんどの遺伝子はZ染色体とW染色体との間で共有されていることがわかった。ところが驚くべきことに、性染色体上のすべての遺伝子(偽常染色体領域PARを含む)の発現のレベルはオスに偏っていた(メスに比べてオスで高くなっていた)。また、オスへの偏りは生殖器官の形成後、著しくなった。このように発現の偏りは、エミューのZ染色体が(ZWの分化が起きていなくても)オス化している(オスに有利な遺伝子が蓄積している)ことを示している。
以上のことから、鳥類は性的拮抗変異による有害な効果を軽減するために2種類の進化的解決手段をとったと考えられる。1つは、組換えを抑制し物理的に性的拮抗遺伝子を片方の性に閉じ込めるという手段(ニワトリなど)、もう1つは今回のエミュー(平胸類)のように性特異的な発現を進化させ性的拮抗遺伝子の産物を片方の性に閉じ込めるという手段である。このようにコンフリクト解決の手段の違いによって、組換えの維持、同形の性染色体が説明できる。これらのことから、性染色体の進化に与える性的拮抗変異の重要性がより一層明らかになったといえる。