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KY BLOG

昆虫と微生物の研究とアート

体内に共生する微生物の巧妙なわざ 〜細胞質不和合について〜

昆虫の細胞内には、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体などの細胞内小器官以外に、細菌などの微生物が共生している場合がある。特に、ウォルバキアと呼ばれる細菌(Wolbachia pipientis)は全昆虫種の約66%に共生していると推定されており*1、地球上で最も繁栄している細菌の1つだと考えられている。ウォルバキアが繁栄することになった原因は、宿主昆虫の生殖システムを操作し、感染メスが非感染メスに比べて多くの子を残すように改変する能力を持っていることによるところが大きい。



ウォルバキアが引き起こす生殖操作には様々なものが知られているが、そのなかで細胞質不和合(cytoplasmic incompatibility: CI)が最も多く見られる。細胞質不和合とは、ウォルバキアに感染されたオスと感染されていないメスとの間の交配(これを不和合の交配という)のみにおいて、生まれてくる子が胚発生過程の初期の段階で死亡する現象である*2 *3 *4

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この不和合の交配では、受精後、産卵された胚の発生初期(第1回目の体細胞分裂)に異常が生じ、胚が致死となる。重要な点は、雌雄ともに感染していた場合、異常は起こらず、正常に胚発生が進むというところである(この現象はレスキューと呼ばれている)。



したがって、感染メスにとっては、交配相手のオスが感染していても感染していなくても問題なく子を残すことができる。一方、非感染メスにとっては、非感染オスと交配したときしか子を残すことができないわけである。つまり、感染メスは非感染メスに比べてはるかに有利であり、結果としてウォルバキアの感染は、母から子ヘと伝わりながら急速に広まることになる。実際CIが昆虫のすべての目(order)から見つかることから、この戦略(CI)が昆虫界で大成功をおさめたといえる。

*1:Hilgenboecker K, Hammerstein P, Schlattmann P, Telschow A, Werren JH (2008) How many species are infected with Wolbachia?―A statistical analysis of current data. FEMS Microbiol. Lett. 281: 215-220.

*2:Werren JH (1997) Biology of Wolbachia. Annu. Rev. Entomol. 42: 587–609.

*3:Stouthamer R, Breeuwer JA, Hurst GD (1999) Wolbachia pipientis: microbial manipulator of arthropod reproduction. Annu. Rev. Microbiol. 53: 71–102.

*4:Werren JH, Baldo L, Clark ME (2008) Wolbachia: master manipulators of invertebrate biology. Nat. Rev. Microbiol. 6: 741-51.